紹介映像
高効率・低環境負荷の新たな成膜手法ミストデポジション法
エレクトロニクス分野では、シリコンやガラス基板だけでなく、フィルムの適用が検討されています。
ニコンでは、高効率・低環境負荷であるRoll to Rollプロセスの研究に取り組んでいます。ミストデポジション法は、
原料溶液をミストにして低温で堆積させることができることから、フィルムへの成膜が可能な手法です。
ミストデポジション法とは
-
溶液のミスト化
01
成膜原料を含む溶液を超音波によりミスト化します。
-
ミストの搬送
02
気流に乗せて、ミストを成膜対象まで搬送します。
-
ミストの付着
03
ミスト化した溶液は比表面積が大きく、成膜対象に付着した後に蒸発します。
-
薄膜形成
04
加熱することなく薄膜の形成が可能です。
特徴⽐較
ミストデポジション法は湿式成膜に分類されます。
大気圧で成膜するため真空を用いた乾式成膜と比べて環境負荷が低く、生産性が高い方法です。
また、一般的な湿式成膜では使用しにくいとされている“水系の溶液”が適用可能です。成膜時に基板を加熱する必要がないため、低融点フィルムの使用も可能です。
乾式成膜では難しい、⽴体構造の基板へも成膜ができます
SEM像
成膜前
成膜後
装置( 試作品 )
R&D用ミスト成膜装置“MisCo”
卓上タイプ R&D用成膜装置を試作しました。
この装置はメンテナンスが簡単なミスト発生ユニットとカスタマイズが可能なノズルで構成されています。
特殊なユーティリティが不要であり、少スペースでも設置が可能です。
-
ミスト発生ユニット
ミスト発生ユニットは、洗浄や交換が容易なパーツで構成されています。多様な材料を検討するR&D環境での成膜実験に適しています。
-
カスタマイズ可能な成膜室
成膜室は、材質やノズル形状を容易にカスタマイズできます。使用する溶液や成膜対象に合わせた細かい変更にも対応が可能です。
長尺・大型のフレキシブルデバイスを想定し
Roll to Rollへの展開を進めています
-
A3幅対応のミスト成膜ノズル
大規模生産に対応するため、A3幅に均一にミストを供給可能なノズルを開発しています。
-
成膜済みPETフィルム
搬送しているフィルム基板に対し連続してミストを供給し、大面積への成膜が可能です。
材料と成膜例
ミスト成膜で機能性薄膜を作製するため
様々な材料を研究しています
透明導電性材料 ITOナノ粒子
分散剤なしで水に分散する高結晶性ITOナノ粒子を論文発表
R. Suzuki, K. Kanie, et al., ACS Appl. Nano Mater., 3, 4870-4879 (2020).
このITOは表⾯に多くの突起を持つ形状をしながらも、⾼い結晶性を維持しています。
TEM像
電子線解析パターン
2週間の静置後も沈降せず、高い分散性を示しました。
水分散液の外観写真
作製直後
2週間後
透明導電膜 ITOナノ粒子
150℃以下のプロセス温度で高透過率・高電気伝導度を実現したITOナノ粒子膜を論文発表
R. Suzuki, K. Kanie, et al., Sci. Rep., 11:10584 (2021).
ミスト成膜装置で成膜された透明導電膜は、他の成膜手法で成膜されたものと比較して、平坦性が高く緻密な薄膜を得られました。
このことは高い導電性を得るためにも効果があり、他の手法よりも抵抗率が低いことが分かりました。
中でも、焼成温度が低い場合にはその効果が顕著であることから、フィルム基板への適用が期待できます。
AFM images
Resistivity of the ITO films
このITOナノ粒子は高い分散性を持つため、基板上でミストが蒸発する際に局所的な凝集が生じません。
その結果、粒子が緻密に充填されることによって、高透過率・高電気伝導度の膜が得られます。
表面SEM像
断面STEM像
分散剤が含まれないため、従来は必須であった高温焼成による除去工程が不要になります。
これにより、低融点フィルム基板にITO薄膜の作製が可能になりました。
PET基板上のITO薄膜は可視光領域において、極めて高い透過率を示しました。
ITO薄膜の透過率
1万回の折曲げ試験後もクラックは入らず、曲げ耐性の高い膜が作製可能です。
折り曲げ試験機外観
1万回試験前後の表面SEM像
反射防止膜 シリカコーティング剤
光学基板にシリカコーティング剤を成膜し、透過率の向上を確認
基板外観
透過率
抗菌膜 Cu-doped TiO2 (CTO) ナノ粒子
CTOナノ粒子を原料として明所・暗所ともに抗菌活性を示す透明膜を開発
ナノ粒子分散液外観
透過率
※東北大学と共同研究
遮熱膜 Ga-doped ZnO (GZO) ナノ粒子
粒子サイズを制御した2種類のGZOナノ粒子を開発し、これらを原料として可視光領域で透明な遮熱膜を開発
Y. Nishi, K. Kanie, et al., ACS Appl. Nano Mater., 3, 9622-9632 (2020).
ナノ粒子分散液外観
TEM像
透過率
分析
成膜過程の粒子の分散状態の解析に取り組んでいます
東北大学と連携し、あいちシンクロトロン光センターで、小角および斜入射小角放射光散乱測定による最先端の解析に取り組んでいます。
ミストでのナノ粒子の分散状態および薄膜形成過程について、独自に開発した観察セルを用いて測定しています。
ミスト供給部外観
観察セル外観
セル内の基板外観
あいちシンクロトロン光センター
詳細はこちらをご覧ください。